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生卵バンザイ!
「タイで生の卵は食べられますか?」
と訊かれたら、答えは多分NO。
広い農場で元気に走り回り、新鮮な野菜やオリジナルの肥料などを与えて育てている地鶏の卵以外、つまりその辺の市場やスーパーで購入した卵を生で食べるのは、かなり無謀な行為だ。
もしかしたらそれらの卵を生で食べているのに今まで一度もお腹を壊したことがない、という方も中にはいらっしゃるかもしれないが、サルモネラ食中毒になる危険性が少なからずあるので充分ご注意頂きたい。
かくいう私も、日本では1度も生卵にあたったことがなかったが、以前こちらでサルモネラ食中毒になり、死ぬかと思うほど酷い目にあった。
なのでそれ以来タイでは生卵は食べられない、とずっと諦めていた。
もっとも、ある程度長くこちらに住んでいると、そんな環境にも順応してしまうもので“卵=火を通すもの”というのがデフォルトになり、生卵を食べられない不自由さを感じることすらなくなってしまうのだが・・・。
生卵の味を忘れかけていたある日、夫のメッセンジャーにバンコク在住のMさんから
「来週チェンマイに行きます。お土産持って行きますが何がいいですか?」
というメッセージが入った。
メッセンジャーというのは簡単に言うと“チャット”。
もう少し厳密に言うならチャットを少しばかり進化させたもの。
ネットに繋がっていれば、どんなに遠く離れている人とでもリアルタイムで文字で会話が出来るという非常に便利なものだ。
夫が
「おーい。ちょっとこっちに来い。
Mさんがバンコクの○○スーパー(日本人向けスーパー)で買い物してきてくれるらしいけど、何か欲しいものあるか?」
と訊いてきた。
欲しいものはいっぱいあるが、急に訊かれると悩んでしまうもの。
1人腕を組み、うーむ~・・・、と考えていた。
するとMさんから再びメッセージ。
「チェンマイでは手に入らないものがたくさんありますから
何でも言って下さい。
生卵なんてどうでしょう?」
「・・・な、なまたまごっ?!
欲しい! 絶対欲しい!! 生卵食べたい~!」
と即反応してしまった。
・・・そういえば、昨年遊びに来てくれた元バンコク在住のR君も、
「バンコクは何でも手に入りますからね~。生で食べられる卵も売ってるんですよ」
と言っていたのを思い出した。
バンコクでは安心して食べられる生卵まで手に入るのかー、バンコクはホントに食の宝庫だな~、と羨ましく思ったものだ。
再びMさんのメッセージ
「わかりました。では来週生卵持って行きますね」。
こちらで手に入らないもののことを考えても虚しいだけなので、食べたくても手に入らないもののことは努めて考えないようにしてきた。
だが、いざ今まで手に入らなかったものが手に入るとになると、それまで心の中に封じ込めてた思いが沸々と湧き出して来た。
その日の晩早速分厚い新鮮な殻の卵を割ってしょう油を少したらし、シャカシャカシャカリズミカルに卵をかき混ぜ、ホカホカのご飯にかけ、トロ~リした生卵の味を存分に味わう夢をみた。
翌日も「生で卵が食べられるなら・・・」と庭のテーブルで1人ニヤニヤしながら生もしくは半熟卵のおいしい食べ方を思い付く限りリストアップした。
生で食べるなら・・・、卵かけご飯 / すき焼き / そば(麺つゆに生卵を落として食べる) / 焼きそば(すき焼きと同じように生卵に絡めて食べる) / カレー(ルーに生卵を落として混ぜて食べる)。
半熟なら・・・、鍋焼きうどん / 味噌煮込みうどん / 親子丼 / カルボナーラ。
生や半熟でも卵が食べられるだけで、食べ方のバリエーションがこんなに広がるなんて・・・。
食いしん坊の私は嬉しくてたまらなくなった。
そして数日後・・・。
Mさんがたくさんのお土産を抱えて遊びに来て下さった。
卵だけではなくチェンマイでは手に入らない日本の食材をたくさん抱えて。
卵はお馴染みの透明パックに入れられていた。
値段を見ると10個入り200B。つまり1個20B。タイの汁そば(クエティアオ)が1杯15~20Bと考えると一瞬高いと思ったが、冷静に考えると安心して生で卵が食べられるのなら決して高い値段ではない。
その晩、夢にまでみた卵かけご飯を早速頂いた。
殻を割ってみると、黄味にはやけに立体感があり、白味もゼリーのように弾力がある。割った瞬間に白味がだらーんと流れ出てくる鮮度が怪しい卵とは大違い。
味も、豊潤という言葉がピッタリの味だった。
あまりにもおいしくてどんぶり飯1杯では足りず、もう1杯おかわりしてしまった。
夫は元々生の卵を好んで食べる人ではないので、1パック全部私が自由に使えると思うと嬉しくてたまらない。
残り8個。さて、次はどうやって食べよう・・・?
思いを巡らすだけで嬉しくてしょうがなかった。
話は変わるが、タイ人は基本的に生卵を食べる習慣がない。
辛うじて食べるとしたら半熟卵。
半熟卵をおいしく食べる料理といえば、バジル炒めに目玉焼きを乗せた“パット・バイカッパーオ・カイダーオ”だろう。
タイでは定番中の定番の料理で、タイ人の間ではもっともポピュラーな料理だ。
具の上に乗せられた目玉焼きをスプーンで割ると、黄味がトロリと流れ出す。それにプリックナンプラー(生唐辛子入りナンプラー)をかけ、具とご飯と卵を混ぜて食べる。
そのまま食べると辛くて強烈な味の具も、半熟卵が混ざることでまろやかでコクのある味になる。
そんなバジル炒めの目玉焼きも、鳥インフルエンザが流行して以来どのお店も卵にしっかり火を通して調理するようになり、火が通り過ぎてカチカチになった目玉焼きを出すお店が多くなった。
断然半熟派の私はどうにも物足りなくて、寂しい思いをしていた。
「そうだ! 久々に半熟トロ~リの目玉焼きが乗ったバジル炒めを食べよう!」
ということで作ってみた。
10個入りで、まだまだあるという安心感から、あれにもこれにもと卵を使ってしまい、あっという間に残り2個になってしまった。
消費した卵の内訳
卵かけご飯(3個)、寄せ鍋の後の雑炊(1個)、チキンラーメン風(1個)、味噌煮込みうどん(1個)、親子丼(1個)、そして、バジル炒めの目玉焼き(1個)。
こうして書き出してみると、大切に使うつもりが、成り行きで何となく消費してしまったものもあるようで・・・、少し後悔。けれど、どれもホントにおいしく頂いたので良しとするか。
残り2個。さて、どうやって食べよう?
半熟のカルボナーラも食べたいし、すき焼きに絡めて食べたい。味噌煮込みうどんもおいしかったし捨て難い・・・。
うーむ。悩む、悩む~。
◆このコラムは月2~3回不定期の更新です。
日々の細々は うなぎ日記 から随時更新中。
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